2019.11.19

手間とコストが3倍増!?「ブレゲひげゼンマイ」の製作現場を取材【H.モーザーの工房へ行ってきた!!】

実は平ひげより3倍かかるブレゲひげの手間とコスト

ダイヤルで個性を主張するH.モーザーは時計精度も追求し、ブレゲひげゼンマイを多用する。高精度を得るための終端の形状が特殊なカーブは、1本ずつ人の手で丁寧に形作られていた。

 

最後のカーブは機械ではできません!

完璧な曲線を生む職人技術
ブレゲひげを取り付けたテンワを拡大投影し、設計図と重ねて品質をチェック。手作業で曲げられたひげゼンマイの外側終端は、より高精度となる特殊なカーブを採用。

精密な自社製巻き上げ機
圧延したゼンマイ材を20㎝ほどにカットし、巻き上げ機にセット。中心部のサイズとスリットの数は、ひげゼンマイの大きさに応じ、写真では4本。

厚さや幅に応じた速度で手回し
ハンドルを回すと中心部が回転し、4本のゼンマイ材を巻き上げる。4つ重なった状態で形成され、重なった厚みが、ひげゼンマイのすき間幅となる。

巻き上げ機から取り外す
巻き上げ後はスリットを持つ中心部ごと取り出し、余分なゼンマイ材をカット。このまま専用オーブンに入れて加熱すると、螺旋形状が固定される。

 

優れた職人技術が生み出す精度を高める絶妙なカーブ

ひげゼンマイの材料を伸線・圧延する工程では高性能なマシンが活躍する一方、螺旋状に形作るのは手作業で行われている。用いるのは、上の写真にある手動巻き上げ機。これも自社製で、完全な円が得られるよう設計されているという。一度に巻き上げられるのは、ひげゼンマイの厚みや幅、サイズに応じて3~8本。職人は実に手際よく作業を進め、1人1日800個ほどが成形可能だ。これを前出のオーブンに1日入れ、ゆっくりと冷ませば一般的な平ひげゼンマイが出来上がるが、H.モーザー用の多くでは、さらに職人による作業が続く。外側の終端を中心方向へと曲げる作業だ。曲げる長さと曲線形状とを設計図通りに出来るのは、優れた職人技術の賜物。こうして生まれる巻き上げひげ、通称ブレゲひげゼンマイは、伸縮時の偏りが格段に軽減され、精度を向上させる。H.モーザーは、さらに2つの平ひげを巻き上げ方向を反転させて重ねてテンワに取り付け、一層精度を高めた独自のダブル・ヘア・スプリングを特別なモデルに用いている。正確さの追求こそが、名門H.モーザーの矜持だ。

 

世界で最も黒いダイヤル
ベンチャー・コンセプト・ベンタブラック®

吸い込まれそうな漆黒のダイヤルは、世界一黒い物質ベンタブラック®製。インデックスすらない究極のミニマルさに、黒が一層映える。3日巻きのムーブメントは、裏蓋側にパワーリザーブ計を装備。手巻き。径39㎜。18KRGケース。アリゲーターストラップ。295万円。

独創的な二層構造デイトディスク
ベンチャー・ビッグデイト

1 ~15と16~31の数字を刻んだ2枚のデイトディスクを重ねることで、表示を大型化。数字が常に窓の中心位置になり、見やすい。レッドゴールドのフュメダイヤルで、独自の機構を艶やかに。手巻き。径41.5㎜。18KRGケース。アリゲーターストラップ。345万円。

<strong>世界で最も黒いダイヤル<br />ベンチャー・コンセプト・ベンタブラック®</strong><br />吸い込まれそうな漆黒のダイヤルは、世界一黒い物質ベンタブラック®製。インデックスすらない究極のミニマルさに、黒が一層映える。3日巻きのムーブメントは、裏蓋側にパワーリザーブ計を装備。手巻き。径39㎜。18KRGケース。アリゲーターストラップ。295万円。
<strong>独創的な二層構造デイトディスク<br />ベンチャー・ビッグデイト</strong><br />1 ~15と16~31の数字を刻んだ2枚のデイトディスクを重ねることで、表示を大型化。数字が常に窓の中心位置になり、見やすい。レッドゴールドのフュメダイヤルで、独自の機構を艶やかに。手巻き。径41.5㎜。18KRGケース。アリゲーターストラップ。345万円。

 

[時計Begin 2019 AUTUMNの記事を再構成]
写真/岸田克法 文/髙木教雄 構成/市塚忠義