2020.06.01

「ヴァル・フルリエ社」3針&クロノの2大潮流ムーブ

各ブランド間で技術を賢く共有
時計有力グループの"お抱え"サプライヤー

リシュモンとスウォッチの2大グループは、サプライヤーも傘下に置く。

最も重要なサプライヤーは、傘下ブランドの根幹を支えるムーブメント部門。

技術を共有し、パーツや設計を共通とすることで高品質と合理性とが両立する。

グループ内製造を目指す3針とクロノの基幹ムーブ

2005年、リシュモン・グループは、スイス北西部の国境の町ビュットに、ムーブメント製造の拠点「ヴァル・フルリエ社」を設立した。実はそれ以前にも、前身となるヴァンドーム・グループ時代から、ムーブメントパーツの製造部門を有していた。それを強化するきっかけは、2000年のLMHグループ傘下だったジャガー・ルクルト、IWC、A.ランゲ&ゾーネの買収だった。これにより、ムーブメントの開発・製造に関するより高度なノウハウが、グループにもたらされたからだ。そしてパネライやモンブランなど、当時自社製ムーブメントを持っていなかった傘下ブランド向けに、個別にチームを編成して開発・製造に当たらせた。

2014年には、広大な新ファクトリーが完成。これに伴い、ETAの代替機となるベーシックな基幹ムーブメントの開発・製造にも着手した。現在、陣頭指揮を執るのは、カルティエで長く手腕を振るったキャロル・フォレスティエ=カザピ氏。彼女は、自身がカルティエ時代に開発したキャリバー1904MCとキャリバー1847MCの基本設計を流用し、各ブランドに向け3針の自動巻きや手巻きムーブメントへアレンジした。それらを称して“リシュモン・ムーブメント”。2018年に話題となったボーム&メルシエ初の自社ムーブ「ボーマティック」のベースとなったのも、その1つだ。

さらにETA7750に代わるクロノも、IWCと共同開発している。2016年発表のキャリバー69000系がそれで、巻き上げ機構の設計や輪列の製造をヴァル・フルリエ社が担当。3針もクロノも、脱ETAを目指す。

3針&クロノの2大潮流ムーブ

リシュモン・グループのムーブメント製造を担うのが、ヴァル・フルリエ社。ベーシックな3針を、傘下ブランドの個性に合わせて製造・供給し、さらに量産型クロノグラフの設計でも、優れた実力を発揮する。

リシュモン・グループ傘下
ヴァル・フルリエ社

所在地
les Sugits 21 2115 Buttes Switzerland URL
https://www.richemont.com/ 採用
ブランドカルティエ、ヴァシュロン・コンスタンタン、 ボーム&メルシエ、IWC、パネライ、モン ブラン、ピアジェなどグループ傘下ブランド。

設計・開発・製造を担うグループの頭脳

2014年に完成した新ファクトリーは、延べ床面積およそ₁万㎡とスイスでも屈指の規模を誇る。従業員数は、600人以上。最新の各種CNCマシンや放電加工機などを整備し、ムーブメントに関するほぼすべてのパーツが、自社製造可能だ。リシュモン・ムーブメントは、ブランドのカラーに合わせてモデファイ。仕上げ部門もある。

 

潮流❶3針ムーブメント[ボーマティック]

耐磁・精度・駆動時間のバランスに秀でる

ボーム&メルシエ初の自社製ムーブメントにして、リシュモン・グループ傘下で初めてシリコン製脱進機を用いた意欲作。ベースとなったのはCal.1847 MCだ。地板を拡大することで、大型の香箱を搭載可能とし、120時間のロングパワーリザーブを得ている。₂ 層構造のシリコン製ひげゼンマイも開発。現行は、第₂ 世代でニヴァロックス製ひげを採用。

自動巻きローターの装飾もお手の物
最新のCNCマシンで切削加工される自動巻きローター。ドーナツ状の円盤からローターを削り出した後、コート・ド・ジュネーブ仕上げを施し、ブランド名などをレーザーで加工する。軸受けは、ボールベアリング。

 

先端技術満載の意欲作!

BAUME & MERCIER(ボーム&メルシエ)
クリフトン ボーマティック 10468
青のグラデダイヤルに配した、スリムな十字はCOSC取得モデル専用装飾。軟鉄製インナーリングにより1500ガウスの高耐磁性を得た。₅連のブレスがスタイリッシュ。オールマイティに使える₁本。自動巻き。径40㎜。SSケース&ブレスレット。35万円。問い合わせ:ボーム&メルシエ

<b>BAUME & MERCIER(ボーム&メルシエ)<br/> クリフトン ボーマティック 10468<br/> </b>青のグラデダイヤルに配した、スリムな十字はCOSC取得モデル専用装飾。軟鉄製インナーリングにより1500ガウスの高耐磁性を得た。₅連のブレスがスタイリッシュ。オールマイティに使える₁本。自動巻き。径40㎜。SSケース&ブレスレット。35万円。<strong>問い合わせ:</strong>ボーム&メルシエ

 

潮流❷クロノグラフムーブメント[IWC69000系]

新作に続々投入! 最新の自社製クロノ

2016年に発表された、IWCのクロノグラフ・ムーブのエントリー機。ETA7750の代替機に位置づけられ、ほぼ同サイズに設計されている。縦₃つ目であるのも同じだが、カム式ではなく高級なコラムホイールが採用される。自動巻きローターは、両巻き上げ。IWCお馴染のペラトン式ではなく、リシュモン・ムーブメント共通のプッシュプル式となっている。

 

IWC(アイ・ダブリュー・シー)
パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・スピットファイア
昨年、Cal.69000系をパイロット・ウォッチでも展開。旧作と同じ縦₃つ目+デイデイトを自社製で叶えた。そのSS仕様は、ベージュの蓄光塗料で、適度なヴィンテージ感に。自動巻き。径41㎜。SSケース。ファブリックストラップ。70万円。問い合わせ:IWC

Cal.69000系搭載モデルは、選択肢が豊富に。右/パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン。径44.5㎜。セラミックケース。ファブリックストラップ。92万円。中/パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・スピットファイア。径41㎜。ブロンズケース。カーフストラップ。76万5000円。左/インヂュニア・クロノグラフ。径42.3㎜。SSケース&ブレスレット。89万5000円。

Cal.69000系搭載モデルは、選択肢が豊富に。右/パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン。径44.5㎜。セラミックケース。ファブリックストラップ。92万円。中/パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・スピットファイア。径41㎜。ブロンズケース。カーフストラップ。76万5000円。左/インヂュニア・クロノグラフ。径42.3㎜。SSケース&ブレスレット。89万5000円。

 

[時計Begin 2020 SPRINGの記事を再構成]