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2022.08.12
ザ・ファーストモデル 第2回 ブランパン「フィフティファゾムス」 ダイバーズウォッチの、これが元祖!
ダイバーズウォッチのルーツを探っていくと辿り着く時計、それがブランパンの「フィフティファゾムス」である。ダイバーズウォッチの3箇条とは、高い視認性と、高い防水機能、そして、潜水時間を計測できる回転ベゼルの搭載である。腕時計の防水性能に関して、業界をリードしてきたのは、ロレックスだ。オイスターケースの堅牢性は、歴史が証明している。ではなぜ、フィフティファゾムスがダイバーズウォッチの元祖と言われるのか。それは、この時計が、回転ベゼルを搭載していたからである。
1953年、ブランパンはフィフティファゾムスを世に送り出した。このモデルの開発には2人の人物が強く関わっている。一人目は、当時のブランパンCEO、ジャン=ジャック・フィスター氏だ。熱心なダイバーであったフィスター氏は、ダイビングに夢中になるあまりボンベの酸素を使い切ったことに気づかず、海で遭難。危うく命を落としそうになった経験から、このような事故を防ぐためのダイバーズウォッチの開発を決意する。
そしてもう一人のキーパーソンが、フランス海軍特殊潜水部隊に所属していたロベール・”ボブ”・マルビエ大尉。真夜中の海にパラシュート部隊として放り出され、そのまま水中に潜水。敵艦に爆弾を仕掛けるという過酷なミッションを、実際に行っていたフランス版のリアル“ジェームス・ボンド”である。敵艦には、当然それを防ぐための鉄網が張り巡らされており、爆弾を仕掛けるには、その下を潜らなければならない。高い防水性能(フィフティファゾムス=91.45m)に加え、ミッションの経過時間を正しく水中で計れる腕時計が必要だった。
海に魅せられ、水中探索を続けた冒険家のフィスター氏。そして任務遂行のために真っ暗な海に潜り続けた軍人のマルビエ氏。対照的にも見えるが、奇しくも2人のダイバーにとって必要な腕時計は同じだった。その後、マルビエ氏がプロの視点からブランパンのダイバーズウォッチの開発に参画。そうして考え出されたのが、時計のベゼルにミニッツインデックスを刻み、それを回転させるという「回転ベゼル」。まさにコロンブスの卵的な発想であった。逆回転防止機能は備わっていなかったが、ベゼルを上から押しつけながらでないと回せないロック式となっていた。
こうして完成したブランパンのフィフティファゾムス。その信頼性の高さは、世界中の国々で実証された。アクアラングの開発者にして、ダイバーの父と称されるジャック=イブ・クストー氏。1957年にアカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画『沈黙の世界』の中で、クストー氏をはじめとする潜水スタッフの腕には、フィフティーファゾムスの時計が、ばっちりと確認できる。またアメリカ、ドイツ、スペインなど世界各国の海軍も、こぞってフィフティファゾムスを採用。様々な仕様のフィフティファゾムスが生まれている。
近年、フィフティファゾムスのフルチタンモデルが誕生し、人気となっているが、チタン製のフィフティファゾムスは、1960年代初頭にアメリカ海軍の要請で早くも誕生していた。素材としても珍しく、チタンの加工技術が確立されていなかった時代。ブランパンは時代の声を先取りし、フィフティファゾムスに集約させることで確実なスペックアップを図っていった。その後、フィスター氏の退陣により、いったん姿を消すフィフティファゾムスだったが、1997年に限定モデルとして復活。立役者は、現CEOのマーク・A・ハイエック氏。彼もまた、優れたダイバーである。
ダイバーとしての経験から、彼は回転ベゼルが傷つきやすいことを知っていた。当時は、着色されたアルミ製インサートを採用する回転ベゼルが主流。ぶつけやすいパーツゆえ、傷がついたり、色褪せたりするのは普通だった。ハイエック氏はこの回転ベゼルの表面を風防素材と同様の、サファイアクリスタルで覆うというアイデアを思いつく。現在、フィフティファゾムスが欲しくなるきっかけは、この「艶々ベゼル」ではないだろうか。新たなアイコンとともに、2007年にレギュラー化されたフィフティファゾムス。2015年には自社製キャリバー1315が搭載され、時計として熟成期を迎えた。ブランパンが誇る“本物”のダイバーズウォッチ。その周りには、いつの時代も“本物”のダイバー達がいた。
問い合わせ:ブランパン
(構成・文/市塚忠義)