2026.07.15

対談:飛田直哉(NAOYA HIDA & Co 創業者・代表取締役)×ロマン・マリエッタ(ゼニス チーフ プロダクト オフィサー )

歴史的コラボレーションが物語る時計への情熱 

『時計Begin 2026夏号』でも既報の通り、ゼニスと、今や世界の時計愛好家から注目を集めるNaoya Hida & Co.とがコラボレーションしたモデル「G.F.J. Double Signed with Naoya Hida & Co.」が、62日、10本限定で発表され、大きな称賛を巻き起こした。このエポックメイキングなコラボレーションは、どのようにして立ち上がり、どのようなプロセスを経て、完成に至ったのか。このモデルの発表会のために来日したゼニス チーフ プロダクト オフィサーのロマン・マリエッタ氏とNHウォッチのファウンダーである飛田直哉氏との対談から、貴重なインサイドストーリーやこのプロジェクトに込めた両者の時計へのパッションが浮かび上がる。 

 

「私はHIDAさんの大ファンなんです!」 

 

――今回のコラボプロジェクトは、どういったところからスタートしたのでしょうか? 

 

ロマン・マリエッタ(以下ロマン):私は飛田さんの大ファンなんですよ。彼の時計をどうしても買いたかったので、ぜひお会いしたいとお願いをして、東京に来たときに飛田さんのアトリエを訪ねました。2024年の5月のことです。 

その時点でG.F.J.のキャリバー135は、まだ世に出ていませんでした。カリ・ヴティライネンさんとコラボして135のオールドムーブメントを用いたモデルをオークションハウスのフィリップスで販売したのが20226月。その後、キャリバー135復活プロジェクトに本格的に取り組み始め、正式にお披露目できたのは、ゼニス創業160周年の2025年でしたから。 

ですが、お目にかかったときには、飛田さんと何か一緒にできないかな、という考えは既に頭の中にありました。 

ロマン・マリエッタ 。1982年スイス ヌーシャテル生まれ。文字盤ファクトリー、メタレムの経営者だった人物を父に持つ。大学ではマーケティングなどを学び、2006年ティエリー・ナタフ氏がCEOだった時代のゼニスに入社、一貫してゼニスでキャリアを積む。当初はブランドマネージャーに就き、「ポートロワイヤル」「クロノマスター」などを担当。2009年、ジャン=フレデリック・デュフール氏がCEOの時代に商品開発部門に異動。その後、スイス国内のマーケティング責任者を経て、チーフ プロダクト オフィサーに就任。

 

飛田直哉(以下飛田):私がキャリバー135を知ったのは、まだ時計輸入代理店に勤務していた1996年のことでした。「Wristwatch CHRONOMETERS]という分厚い書籍を入手したのですが、そこに掲載されていた中で惚れ込んだのが、ゼニスのキャリバー135。テンプを大きくするために2番車をわざわざ移動させ、他のキャリバーとはレイアウトが全く違うところに、まず惹かれました。135の実機には日本やスイスのヴィンテージショップなどで何度も目にしていましたが、コンディションや様々な条件から、購入には至りませんでした。 

飛田直哉(ヒダ・ナオヤ)。1963年京都府生まれ。1990年輸入時計商社の日本デスコに入社、94年日本シイベルヘグナー(現DKSHジャパン)に移りセールスやマーケティングを担当した後、F.P.ジュルヌ、ラルフ ローレン ウォッチ アンド ジュエリーの日本法人代表を歴任。2018年独立し、自身が理想とする腕時計製作を具現化するべくNH WATCH(株)を設立し、代表取締役に。「NAOYA HIDA」のモデルは、今や世界の愛好家の垂涎の的となっている。時計界のアカデミー賞とも言われるジュネーブウォッチグランプリ2023において、最終選考審査員も務めた。 

ロマン:実は私はヴィンテージのYGケースのキャリバー1351本所有しています。それは日本で手に入れたものでした。カリ・ヴティライネンさんにお願いして、オープンケースバック仕様にしてもらったのです。 

 

――ロマンさんは、NAOYA HIDAの時計は手にすることができたのですか? 

 

ロマン:幸い、ムーンフェイズ付きの「TYPE3B」を昨年受け取ることができました。本当に大ファンですから。買えるものならもっと買いたい() 

 

飛田:この人、相当な時計オタクですよ()。大手の時計会社で、本当の時計好きって必ずしも多くはないのですが、レアな存在ですよね。カリ・ヴティライネンさんとのコラボも、興味深いプロジェクトだなと思って眺めていたら、向こうから思わぬ話が舞い込んできたのです() 


天文台コンクールで数々の賞を獲得した伝説的な手巻きムーブメント「キャリバー135」。G.F.J.コレクションでは、オリジナルである1962年の設計と直径(13リーニュ)を忠実に引き継ぎつつ、現代の技術で再設計と改良が施されている。パワーリザーブは、オリジナルの約40時間から大幅に向上し、約72時間を実現。

 

 

分かっている同士のコラボレーションの妙 

 

ロマン:飛田さんのアトリエを訪ねてお話をしたら、知識はすごいし、時計関係の蔵書も素晴らしいし、これはエキサイティングな関係になるのは間違いないと直感しました。スイスに帰ってすぐに、飛田さんをイメージしたデザインを起こして、送ったのです。 

 

飛田:キャリバー1351950年代のものですが、我々のコレクションの中で5060年代モチーフというと「NH TYPE2」なんですね。彼らはそれをよく理解していて、センターセコンドの「TYPE2」をベースにして、スモールセコンド仕様に当てはめたデザインを送ってきた。もう最初からバシッと方向性が合致しました。仕組まれたマーケティングみたいなものは抜きにしたコラボレーションになるな、と思いました。 

 

ロマン:「TYPE2」は、飛田さんの原点にも近いモデルですしね。そこをスタート地点として、プロポーションだとか、何を省いたらいいかとか、もう細かいところまで、相当やり取りをしました。 

さて、クイズです。今回の最終デザインには、ゼニスの時計には本来ある要素が欠けています。同時に、NHウォッチの時計に本来ある要素も欠けています。それは何でしょう? 

 

――難しい質問ですね。並べてみると……。ゼニスのスターがありませんね。 

 

ロマン:正解です。飛田さんのほうからは? 

 

飛田:実は、通常ロゴの下に入っている「TOKYO」の文字がないのです。最初、上から、スター、ZENITHNAOYA HIDATOKYO の4行仕様のデザインも考えたのですが、やっぱり2行が一番バランスがいいんですよ。12時位置のインデックスの位置にスターを入れるとか、いろいろやってみたのですが、どうもうまくいかない。それでリモート会議の際、ダメもとでスターを省きませんかと提案してみたのです。 

 

ロマン:説得力のある提案だと思いました。クリーンな印象になるし、正しい選択肢でしたね。強烈な提案といえばそうですが、社内でディスカッションをしたときも、そんなに抵抗はなく、すんなり通りました。コラボレーションですから、どちらか一方が強くてもダメですし。スモールセコンドのところに「G.F.J」と、6時位置に小さく「SWISS MADE」は入れていますが。 

 

飛田:その「SWISS MADE」の文字も、通常は印刷ですが、微細加工機で今までで一番小さい0.05㎜のエンドミルで削って、インクを入れているのです。インデックス部分等は微細加工機を使い、3912のアラビア数字はNHウォッチの彫金師の加納さんの手彫り。だから、この文字盤は超小さい彫刻の塊なのです。 

針は「TYPE2」はスチール製なのですが、今回はWGを使いました。重くなるので、裏側に溝を掘って軽くする工夫もしています。 

 

ロマン:ストラップは3本付属と決めて、日本らしいものをということで、飛田さんにお願いしました。 

 

飛田:というお題が来たので、まず標準で付くのが甲冑などでも用いられた姫路黒桟革、それから広島のカイハラデニム、そして私が生まれ育った土地でもある京都レザーのカーフをムラ染めで仕上げたストラップを、ジャン・ルソーで作ってもらいました。全部ダークブルーなのです。 

 

3種類のストラップが付属。こちらは姫路黒桟革で、豊かな質感と深みで知られる。伝統的ななめし技術を駆使して革本来の美しさを引き出し、日本の漆を何度も塗り重ね、各層を丁寧に塗布し手作業で磨き上げている。

こちらは、京都レザーの職人が古くからの技術で精製した和牛革。

こちらは、深いインディゴブルーで、広島県福山市にルーツを持つ職人技の伝統を反映した、カイハラデニム社製の日本製ノンストレッチデニム。

3種類のストラップが付属。こちらは姫路黒桟革で、豊かな質感と深みで知られる。伝統的ななめし技術を駆使して革本来の美しさを引き出し、日本の漆を何度も塗り重ね、各層を丁寧に塗布し手作業で磨き上げている。
こちらは、京都レザーの職人が古くからの技術で精製した和牛革。
こちらは、深いインディゴブルーで、広島県福山市にルーツを持つ職人技の伝統を反映した、カイハラデニム社製の日本製ノンストレッチデニム。

 

――インデックスの色調も、通常とは異なるダークブルー。サイズはNHウォッチのスタンダードよりは、やや大きめの39㎜ですが、この辺もやり取りがあったのでしょうか。 

 

飛田:インデックスのカシューは最初、黒を想定していましたが、ゼニスのイメージカラーのブルーにしたいということで、その色合いの漆を探して、流し込んでいます。ケースは、我々が一から設計したらもう少し小さくするかもしれませんが、これはゼニスサイドからの額縁的な部分なので、そこは変えないで、こちらからは美しい文字盤と針をつくって、美しい時計になることを目指しました。僭越ながら、ゼニス史上、最も美しい時計のひとつになったと自負しています。 

 

ロマン:ヴィンテージの135には、過去にいろいろなサイズが存在していて、将来的にはもう少しサイズダウンしたモデルも考えてみたいですね。今後、この「ダブルサイン」をシリーズ化していきたいのです。その第一章で飛田さんとコラボし、素晴らしい基礎を築くことができたと思っています。このコラボプロジェクトを通して、飛田さんの時計作りへの情熱、ディテールへのこだわり、将来的なビジョンなどなど、とにかくいい意味で驚かされました。時計に対する同じような情熱を持ちながら、我々が持っていないような側面や角度から、様々なディスカッションができ、本当にワクワクしました。話題作りではない、時計史に残るようなものを作りたいという思いを、具現化できたと思っています。 

 

文/まつあみ 靖

 

ゼニス「G.F.J. Double Signed with Naoya Hida & Co.」 1950年代にスイスの天文台クロノメーターコンクールで圧倒的な成績を残した、1万8000振動/時の伝説的なキャリバー135。創業160周年を機にゼニスが復活させた、新生キャリバー135を搭載し、デザイン、プロポーション、仕上げ、ディテールなど、ゼニスと飛田氏との綿密なディスカッションと製造工程から誕生した歴史的なコラボレーションモデル。モデル名の「G.F.J.」はゼニス創業者、ジョルジュ=ファーブル・ジャコのイニシャルから。手巻き、ケース径39㎜、プラチナケース、ストラップは京都で製作された国産牛革、姫路黒桟革、日本製カイハラデニムの3本が付属、5気圧防水、世界限定10本、1189万1000円、完売。

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ゼニス「G.F.J. Double Signed with Naoya Hida & Co.」    1950年代にスイスの天文台クロノメーターコンクールで圧倒的な成績を残した、1万8000振動/時の伝説的なキャリバー135。創業160周年を機にゼニスが復活させた、新生キャリバー135を搭載し、デザイン、プロポーション、仕上げ、ディテールなど、ゼニスと飛田氏との綿密なディスカッションと製造工程から誕生した歴史的なコラボレーションモデル。モデル名の「G.F.J.」はゼニス創業者、ジョルジュ=ファーブル・ジャコのイニシャルから。手巻き、ケース径39㎜、プラチナケース、ストラップは京都で製作された国産牛革、姫路黒桟革、日本製カイハラデニムの3本が付属、5気圧防水、世界限定10本、1189万1000円、完売。
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問い合わせ:ゼニス ブティック銀座
ゼニス公式サイト