カルティエ、パネライの2021新作にみる”エシカル”こそ真のラグジュアリーだ！

『時計ライター髙木教雄が解説！　2021年新作時計レポート』Vol.3

髙木教雄（たかぎ・のりお）
1962年生まれ。1990年代半ばから時計を取材対象の1つとし、『時計Begin』をはじめとする時計専門誌やライフスタイル誌で執筆。

近年、ラグジュアリーブランドはエシカルという視点を持つことが求められている。直訳すると、倫理的・道徳的。地球環境に優しく、それが作られる労働環境にも配慮して、動物も傷つけない。サステイナブルな社会の実現のために、エシカルな製品作りを追求することが、真のラグジュアリーであるとされているのだ。時計業界にも、その流れは確実に来ていて、WATCHES & WONDERS GENEVAではカルティエとパネライからエシカルを明確に打ち出した新作が発表された。

カルティエ

「タンク マスト」がソーラーパネル搭載で光起電発電！

LazizHamani© Cartier

カルティエのエシカルな新作は、メゾンの重要なアイコンの１つである「タンク」の新モデル「タンク マスト」に登場した。外観は時計ファンにはお馴染みのシンプルな２針の「タンク」だが、ムーブメントには４年かけて開発した光起電発電「ソーラービート™」を初搭載する。長期間電池交換が不要なクォーツは、まさにエコである。ダイヤルの下に設置されたソーラーパネルへの光の導線は、ローマ数字のインデックス。実はプリントではなく、その形にくり抜かれているのだ。ダイヤル最上部のプレートは極めて薄く、かなり拡大して見なければくり抜いた段差は確認できず、既存モデルと変わらぬスタイルや印象を保ったまま光起電発電を実現している。さらにストラップには、リンゴの加工品の廃棄物から得た植物素材を40％以上含むエコレザーを初採用。その質感は、上質なカーフと比べてもそん色はなく、エシカルとラグジュアリーとを見事に両立させている。

パネライ

エコSSやエコチタンをケース素材に採用！

パネライからは、「資源を循環させる製造業の新しい在り方を時計業界にもたらす」というミッションを自らに課し、リサイクル素材を積極的に導入した２つの新作が発表された。

まずは「ルミノール マリーナ eSteel」。そのケース素材には、重量比で58.4％のリサイクルベースのステンレススティールが使用されている。その組成は、他のパネライのSSケースと同じで、高級時計で広く用いられる361Lと同じだという。エコなSSケースには、自社製３日巻きCal.P9010を搭載する。

もう１つは、時計を構成する素材の実に98.6％をリサイクルベースとした「サブマーシブル eLAB-ID」。そのケースは、廃棄された航空機などから取り出したチタンをベースとしたエコチタンを用いている。さらにエコチタンは、リューズガードやムーブメントのブリッジにも採用。それだけではない。ストラップ素材、サファイアクリスタル、ゴールドの針、スーパールミノバ、ムーブメントの人工ルビーもリサイクル由来で、脱進機もリサイクルシリコンで形作られている。サステイナビリティを徹底的に追求した、この実験的な新作は、時計界にまさに大きな一石を投じるものだ。