2026.08.10

ライネ最新作「P33」は、ケース径33㎜で手仕上げの限界に挑む!

時計好き必見! 小さくても抜群の破壊力!

「P33」。手巻き。ケース径33㎜。SSケース。レザーストラップ。5気圧防水。220万4000円。

これまでスイスやドイツで、数多くの時計師に出会い、その経歴や成功までの道のりを聞いてきた。最も標準的なのが、時計学校を卒業して大手メゾンに入社するパターン。もしくは独立時計師のように自力で起業し、成功を収める者もいる。中には完全に独学で時計製造を習得して、工房を立ち上げる強者も少なくない。

時計師になるのに、決まったルールはない。そんなことを強く感じたのが、時計製作をほぼ一人でこなす時計師「ライネ」に出会った時だった。彼は、なかなか変わった経歴を持つ時計師である。40歳までは普通の理系の会社員。その後、時計師になるためにフィンランドで時計学校に通い、単身ではなく家族総出でスイスに移住してしまったのだから。

もちろん、なんの脈絡のない思いつきの計画ではない。実力で勝ち取ったチャンスと、彼なりの勝算があったのだ。2011年、フィンランドの時計学校で頭角を現すと2014 年にはその時計学校の代表として A.ランゲ&ゾーネの学生コンペティションに参加。ETA 6498ムーブメントに搭載するムーンフェイズ機構を設計・製作したことで「A.ランゲ&ゾーネ ウォッチメイキン グ・エクセレンス・アワード」を受賞する。

このことがきっかけとなり、その後の彼の時計人生を決定づける2つの工房で経験を積むことに。まず、現代最高の時計師の一人であるカリ・ヴティライネンの工房で部品製作に携わり、装飾や仕上げに対する徹底した手仕事を学ぶ。その後、A.ランゲ&ゾーネの装飾部門で研修を受け、工程管理と体系化された製作プロセスが重要であることを身につけた。

そして2016年には自身のブランドを立ち上げ、2017年には早くも最初の自社製時計を納品。スイス高級時製造の地として知られるヌーシャテルに本格的な工房を構えた。ちなみに彼はダイヤルの手彫りギョーシェからムーブメントの面取りまでを一人でこなすマルチな才能の持ち主だが、繊細パーツのブラックポリッシュ仕上げなどは、彼の妻が担当している。

さて、そろそろ最新モデルの話。完全なるライネの新コレクション「P33」をご紹介したい。「33」とはサイズのこと。この時計のケース直径は、33㎜。ライネ最小サイズとなる手巻きモデルなのだ。ライネはこの小さなケースとダイアルに、そしてムーブメントに、今まで以上の繊細な手仕事を詰め込んだ。

秒針のない2針の短針と長針の先端は、手芸針のごとく極細に仕上げられている。実際に0.2㎜のスティール板から切り出し、一本ずつ手作業でヤスリをかけて丸みを帯びた面を形成して行く。美しいブルーの発色は、もちろん焼いて色付けするブルースティール。その個性的な針が指し示す先にあるインデックスが、さらにユニークだ。

一見すると、大小2サイズのドットインデックス。しかしその形状は、かなり複雑だ。丸いインデックスは、実はお皿のように窪んでおり、その中に極小の球体パーツが取り付けられている。分かりやすく言うと、お茶碗の中にピンポン玉が入っているようなバランスだ。

実際のサイズ感は、肉眼ではもちろん見えない。拡大ルーペを使っても、まだディテールが見えないほど小さく、カメラでマクロ撮影して拡大し、ようやくその形を確認することができた。お皿の内側はポリッシュ仕上げ、中のボールは青焼で仕上げている。

ダイアル装飾の美しさは、ライネ最大の特徴。手動式旋盤を用い、ダイアルの内側と外側で2種類の緻密なギョーシェ装飾を手作業で丁寧に入れている。内側のギョーシェ模様(インバーテッド・ グレイン)は中央にいくほど間隔が狭くなり、放射状のラインを形成。また外側にはグラ ン・ドルジュ(大粒の麦)と呼ばれるギョーシェ装飾を施し、小さなダイアルにして、抜群の存在感を放っている。

時計を裏返すと、そこに収まっているのは、美しい手巻きのムーブメント。時計好きにはちょっと懐かしい、プゾー7001をベースに自社製のブリッジや仕上げを施した小型ムーブメントが、毎時2万1600振動で心地よくビートを刻んでいる。

ちなみにムーブメントのブリッジや香箱ネジ、角穴車受けなど、合計17点にも及ぶスティールパーツにブラックポリッシュ仕上げを施している。夫婦で力を合わせて仕上げたムーブメントの美しさは、格別。最新の「P33」に限らず、ライネの腕時計は、家族愛に満ち溢れたタイムピースなのである。

問い合わせ/スイスプライムブランズ TEL03-6226-4650

文/市塚忠義