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2018.08.26
【シャネルの工房へ行ってきた #番外編】ローマン・ゴティエの“専門気質”
シャネルの時計を“特別”にする
ローマン・ゴティエは、超精密切削技術を持つ屈指のサプライヤー。高度な加工技術が、シャネルのムーブに美と高性能とをもたらす。
スイスでトップレベルの精密加工&仕上げ技術
美の創造には、最高のテクニックが必要である──そう考えるシャネルは、自社製ムーブを開発するにあたり、スイスでも屈指の超精密切削技術を持つローマン・ゴティエと資本提携した。
ジュウ渓谷のル・サンティエに位置するその工房では、高性能なCNC工作機械1台につき1人の技術者が専従。机上でのシミュレーションでは解決できない微細な誤差を微調整しながらマシンを操り、直径が1㎜にも満たないチューブを鋼材から削り出す技術をそれぞれが有しているという。
新たなパーツの依頼が入れば、それに最適なバイト(刃)の形状と素材とを検討し、専門メーカーにオーダー。各工作機械には、オイルクーラーを追加して切削時に生じる熱による膨張までもコントロールしている。
こうした努力の集積により、加工誤差わずか2ミクロンを実現。これほどの高精度切削技術を持つサプライヤーは、スイスでも数社に満たない。加えて同社は鋭利なダイヤモンドカッターと手仕事とを組み合わせた仕上げ加工も得意。
例えばキャリバー1.の星を象る歯車は、華奢で強度が心配だが、フレームと歯車の内面すべてをダイヤモンドカッターで面取りし、断面を多角形にすることで曲がりに強くしているという。これは工房を率いるローマン・ゴティエ氏によるアイデアだ。さらに表面に手仕上げで緻密なヘアライン加工が施され、シャネルに納品される。
リューズの巻き芯、歯車やテンプの軸、ビスなどもローマン・ゴティエが担当。細い回転軸や小さなビス類は、研磨材などを入れた容器に封入し振動させることで優れた美観を得ている。
一切の妥協と無縁の高い切削技術と仕上げ技術を駆使したパーツが、シャネルのムーブをより特別なものにする。
[時計Begin 2018 SUMMERの記事を再構成]
文/岡崎隆奈 イラスト/WADE LTD