2020.06.12

お抱えサプライヤーは「独占」ではなく「育てる」

互いのメリットを活かすパートナー体制
お抱えサプライヤーは「独占」ではなく「育てる」

サプライヤーを傘下に置くのは、巨大グループだけではない。例えばシャネルはケースとブレスレットの技術に秀でたサプライヤーを、オーデマ ピゲとシチズンは精巧なムーブメントのサプライヤーをそれぞれお抱えにしている。その技術は独占せず、他社にも供給することでより磨かれる。互いに有効なパートナーシップが、結ばれている。

買収以前の体制を保ち他社からも受注し技術を研鑽

シャネルは、2011年に複雑機構を得意とするローマン・ゴティエに、2018年にモントル・ジュルヌ(F.P.ジュルヌ)とチューダーのムーブメントも手がけるケニッシ社への資本参加を発表。時計部門の強化を、積極的に進めている。そうしたシャネルによるスイス時計界への投資は1993年、それまでメゾンのケースとブレスレットの製造を依頼していた「G&F シャトラン社」を子会社化したことに始まる。以来、ここをメゾンの時計製造の拠点にしてきた。

同社が持つ優れた切削加工技術が生み出すケースとブレスレットは、名だたる高級ブランドから高く評価され、今もシャネル以外の外装も製作している。設備投資も積極的に行い、ファクトリーを拡張。日本のセラミック加工技術を取り入れつつ自社のノウハウを進化させ、シャネル ウォッチのアイコン「J12」のケースとブレスレットの自社製造も可能とした。このセラミックケース技術でさえも独占することなく、他社にも提供。シャネル以外の要求に応えることで、技術はより高まり、それが自社の製品に反映されると考えているからだ。

そんなシャネルに、かつて複雑機構を提供していたのが、「オーデマ ピゲルノー エ パピ(APRP)社」だ。1986年、オーデマ ピゲに所属していたドミニク・ルノー氏とジュリオ・パピ氏によって設立されたムーブメント会社であり、当初の社名は「ルノーエ パピ」。そして1992年にオーデマ ピゲが資本参加したことで、現在の社名となった。名だたる天才時計師がこれまでに在籍し、数々の複雑機構を様々なブランドに提供。オーデマピゲ傘下となってからも、前述のシャネルやリシャール・ミル、HYTなどのために、独創的な機構を持つムーブメントを開発・製造している。特殊合金の音響板にゴングを設置して豊かで美しい音色を奏でるオーデマ ピゲのミニッツリピーター「スーパーソヌリ」も、APRPの開発である。

やはりオーデマ ピゲも、傘下のAPRPが他社と手を組むことをいとわず、技術の研鑽を促している。G&Fシャトラン社もAPRPも、元々は独立企業であり、クライアントを持っていたことが、影響しているのだろう。

2012年にシチズン傘下となった「ラ・ジュー・ペレ社」も、同様である。ETA7750のモデファイで知られる、優秀なムーブメント会社であり、多くの提携先を持っていた。シチズンは、その契約を継続させている。さらにラ・ジュー・ペレ社が傘下に置く高級時計ブランド「アーノルド&サン」用の、自社製ムーブ開発にも口を出さない。買収はしたが、それ以前の体制を堅持させたのだ。そしてシチズンは、ラ・ジュー・ペレ製ムーブ搭載モデルを市場に投入することで、高級化とイメージアップを図っている。

いずれのサプライヤーも、親会社との利害を一致させ、自身の技術を磨く。

シャネルのお抱えサプライヤー
G&F シャトラン社

所在地
Allée du Laser 18, 2300 La Chaux-de-Fonds Switzerland
URL
https://www.chatelain.ch/
採用ブランド
シャネルと資本関係にあるベル&ロスのケースとブレスレットも、一手に引き受けている。

金属もセラミックも扱う外装のスペシャリスト

1947年創業。当初はメタルブレス製造を事業とし、1960年代に入ってからはケース製造にも進出を果たした。精密切削技術に長け、多くのブランドから信頼を得てきた。1993年にシャネルの子会社に。順次工場を拡張し、セラミックの外装も完全自社製。2011年には、シャネルの自社製ムーブメント開発のためのオートオルロジュリ部門を設立し、シャネルウォッチ部門の拠点となっている。

スイス屈指のセラミック技術
2006年以降、セラミックの外装も完全内製化。焼成後のセラミックケースは、セラミックの粒と研磨材の中で磨かれ、ポリッシュ仕上げされる。

スイス屈指のセラミック技術
完璧に温度管理された電気炉を用い、1000℃以上で高温焼成する。焼成後は成型時と比べて約30%縮むが、その収縮率をコントロールする技術を蓄積している。

<b>スイス屈指のセラミック技術</b><br> 2006年以降、セラミックの外装も完全内製化。焼成後のセラミックケースは、セラミックの粒と研磨材の中で磨かれ、ポリッシュ仕上げされる。
<b>スイス屈指のセラミック技術</b><br>完璧に温度管理された電気炉を用い、1000℃以上で高温焼成する。焼成後は成型時と比べて約30%縮むが、その収縮率をコントロールする技術を蓄積している。

 

セラミックに最上級の美を

CHANEL(シャネル)
J12 ファントム
新生J12のインデックスや針もブラックに仕立て、ダイヤルに溶け込ませた。ケニッシ社製のオリジナルの新型キャリバーを搭載。70時間駆動で、COSCも取得する。自動巻き。径38㎜。高耐性セラミックケース&ブレスレット。69万円。問い合わせ:シャネル(カスタマーケア)

オーデマ ピゲのお抱えサプライヤー
オーデマ ピゲ ルノー エ パピ社

所在地
Rue James Pellaton 2, 2400 Le Locle Switzerland
URL
https://www.audemarspiguet.com/ja/
採用ブランド
オーデマ ピゲ、リシャール・ミル、HYT、ブライトリング、シャネル、IWCなどにオリジナル機構が備わるムーブメントを提供。

複雑機構を自在に操り独創的なメカも創出

トゥールビヨンやミニッツリピーター、クロノグラフといった複雑機構を得意とし、それらを自在に組み合わせる優れた設計力を持つ。また各機構を極限まで進化させることに加え、他にはない独創的機構を生み出している。

“コンセプト”の最新作

AUDEMARS PIGUET(オーデマ ピゲ)
ロイヤル オーク コンセプト トゥールビヨン
クロノグラフ オープンワーク
ファセットカットのケースを、チタンで軽量化。日本ブティックのために製作された、特別モデルだ。限定25本。自動巻き。径44㎜。チタンケース。ラバーストラップ。価格要問い合わせ。問い合わせ:オーデマ ピゲ ジャパン

フルオープン仕立ての複雑機構
2002年にスタートした"ロイヤル オーク コンセプト"は、APRPの創造力が注ぎ込まれたコレクション。このモデルでは、トゥールビヨンとクロノグラフを統合し、フルオープンに。12時位置ではペリフェラルローターの動きを見せる。

<b>AUDEMARS PIGUET(オーデマ ピゲ)<br />ロイヤル オーク コンセプト トゥールビヨン<br />クロノグラフ オープンワーク<br/> </b>ファセットカットのケースを、チタンで軽量化。日本ブティックのために製作された、特別モデルだ。限定25本。自動巻き。径44㎜。チタンケース。ラバーストラップ。価格要問い合わせ。<strong>問い合わせ:</strong>オーデマ ピゲ ジャパン
<b>フルオープン仕立ての複雑機構</b><br>2002年にスタートした"ロイヤル オーク コンセプト"は、APRPの創造力が注ぎ込まれたコレクション。このモデルでは、トゥールビヨンとクロノグラフを統合し、フルオープンに。12時位置ではペリフェラルローターの動きを見せる。

 

シチズンのお抱えサプライヤー
ラ・ジュー・ペレ社

所在地
Boulevard des Éplatures 38, 2300 La Chaux-de-Fonds Switzerland
URL
https://www.lajouxperret.com/
採用ブランド
シチズン、ボーム&メルシエ、カール F.ブヘラ、グラハム、ウブロなど。傘下のアーノルド&サンの複雑機構も完全自社製造する。

抜群の生産能力を持つムーブメントメーカー

1985年創業のジャケ社が、2001年に今の社名に変更。ETA7750のモデファイで成功を収め、現在は複雑機構を含むオリジナル・ムーブも開発・製造する。2012年にシチズン傘下に。セリタ製ムーブの地板と受けも製造している。

シチズン唯一の機械式クロノ

CAMPANOLA(カンパノラ)
メカニカルコレクション・クロノグラフ
12時位置にビッグデイトも備えるダイヤルには、和紙をモチーフとした縦縞を刻み、日本の美意識を伝える。自動巻き。径44㎜。SSケース&ブレスレット。78万円。問い合わせ:シチズンお客様時計相談室

精緻なメカを裏蓋に見せる
ラ・ジュー・ペレ製クロノをカンパノラに初搭載。カム式ながら造作は極めて精巧で、スイス製ならではの装飾仕上げが施されている。

<b>CAMPANOLA(カンパノラ)<br />メカニカルコレクション・クロノグラフ<br /> </b>12時位置にビッグデイトも備えるダイヤルには、和紙をモチーフとした縦縞を刻み、日本の美意識を伝える。自動巻き。径44㎜。SSケース&ブレスレット。78万円。<strong>問い合わせ:</strong>シチズンお客様時計相談室
<b>精緻なメカを裏蓋に見せる</b><br>ラ・ジュー・ペレ製クロノをカンパノラに初搭載。カム式ながら造作は極めて精巧で、スイス製ならではの装飾仕上げが施されている。

 

ビッグデイト&パワリザ表示!

CAMPANOLA(カンパノラ)
メカニカルコレクション
12時位置にビッグデイト、6時位置にはパワーリザーブ計を装備する。秒・分インデックスの別体チャプターリングをビス留めし、奥行感を創出。自動巻き。径42㎜。SSケース&ブレスレット。53万円。

高精度が叶う3針自動巻き
3針自動巻きも、ローターなどの装飾に凝る。テンプは繊細な歩度調整ができる緩急針が備わり、高精度が得やすい。約42時間駆動。

<b>CAMPANOLA(カンパノラ)<br />メカニカルコレクション<br /> </b>12時位置にビッグデイト、6時位置にはパワーリザーブ計を装備する。秒・分インデックスの別体チャプターリングをビス留めし、奥行感を創出。自動巻き。径42㎜。SSケース&ブレスレット。53万円。
<b>高精度が叶う3針自動巻き</b><br>3針自動巻きも、ローターなどの装飾に凝る。テンプは繊細な歩度調整ができる緩急針が備わり、高精度が得やすい。約42時間駆動。

 

[時計Begin 2020 SPRINGの記事を再構成]