2024.02.29

LVMH WATCH WEEK 2024 新作特集 ウブロ

2024年のLVMH WATCH WEEKは、1月末にアメリカのマイアミで開催。W&W 2024を間近にしながらも、数多くの新作が発表された。やはりLVMHグループの勢い、開発する力は、もの凄い。時計ファンなら誰もが気になる3ブランドの新作を順次紹介する。

MPの10作目にして、リニア丸見えの衝撃!

ウブロのMP(マスターピース)コレクションは、同メゾンの技術力を極めた特別な時計。これまで9作の時計が発表され、どれもが「どうやって作った?」と目を疑いたくなるような衝撃作ばかりだった。その記念すべき10作目のMPが、写真の「MP-10 トゥールビヨン ウエイト エナジー システム チタニウム」である。

「MP-10 トゥールビヨン ウエイト エナジー システム チタニウム」。自動巻き。チタニウムケース。縦54.1×横41.5㎜。ラバーストラップ。3気圧防水。世界限定50本。3767万5000円。

見た目のインパクトの強さは、歴代ダントツ。時計ファンでなくとも、この時計を見てサラリと流せる人は、いないだろう。時計の形状は、丸でもなく四角でもなく、丸みを帯びた流線形のサファイアクリスタルとチタニウムで囲われている。

ベースのケース素材はチタニウムであるが、ケースバックだけでなくケースサイドやストラップへとつながる6時位置側も、大きくサファイアクリスタルによって「透明」に開口されているため、中のメカニズムは、ほぼ丸見えである。

傾斜がつけられたトゥールビヨンを6時位置側から思う存分眺められるのは、これまでのモデルでも実現していたが、見どころはケース両サイドに見える黒いリニアウエイト(素材はホワイトゴールド製)だ。この2つのパーツが「上下」に動くことでゼンマイが巻き上がり約48時間以上のパワーリザーブを実現している。

人の腕の動きでゼンマイを巻き上げるのであれば、回転運動より垂直運動に置き換えたほうが、効率的であることは間違いない。しかし、回転ではない以上、ウエイトは上下でぶつかって止まる。この衝撃に耐えるメカニズムを実現するために、ウブロはショックアブソーバーのシステムを開発。ウエイトの上下に見えている黒いバネがその役割を果たす。

ウエイトの動きに目を奪われがちだが、時刻表示も非常にユニーク。この時計には、ダイアルがないが、針も存在していない。時刻表示は、中央にセットされた2つのアルミニウム製のローラーで行う。その下のパワーリザーブ表示もローラー式、さらにその下には秒針の役割も果たすトゥールビヨンがセットされ、これらの表示がキレイに縦一直線に並べられている。そのため直感的に時間を把握しやすく、この設計の緻密さは、お見事というしかない。

通常、このような「夢のような時計」は、コンセプトウォッチとして発表され、作られるのは数本。もしくは作ってはみたものの、結局「動かなかった」なんてことが、よくある。ウブロが真のマニュファクチュールと言われるのは、このスペシャルな時計を50本製作し、そしてキチンと販売するからである。

実際に腕につけさせてもらった時計は撮影用のサンプルではなく実機であったし、何よりその時計の大きさが現実的! これだけの複雑な機構を搭載していながらも非常にコンパクトなのである。あくまでウブロは「腕につけて楽しむ時計」として、この超絶時計を開発したことが分かる(開発には5年費やしたそうだが……)。

 

こちらはウブロが独自に展開する新素材SAXEMの新モデル。SAXEMとは、Sapphire Aluminium oXide and rare Earth Mineral(酸化アルミニウムと希土類鉱物のサファイア)”の頭文字を採用したもの。2020年に「ビッグ・バン MP-11 14デイ パワーリザーブ グリーンSAXEM」、2023年に「ビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック イエローネオン SAXEM」を発表。SAXEMにウニコ搭載モデル「ビッグ・バン ウニコ グリーン SAXEM」が誕生した。

「ビッグ・バン ウニコ グリーン SAXEM」。自動巻き。径42㎜。グリーンSAXEMケース。ラバーストラップ。5気圧防水。世界限定100本。1657万7000円。

サファイアクリスタルのスペシャリストであるウブロは、様々なカラーのサファイアクリスタルケースを開発してきたが、「エメラルドグリーン」は実現させることが不可能。そこで新たに開発したのが、より美しい輝きを放つ素材「SAXEM」である。その特性は、非常に硬度が高く耐久性に優れ、サファイアクリスタル以上の輝きを放ち、張力がないため形状が安定し、結晶構造(立方晶、4面体)により360度どの角度から見ても美しい同じ色合いになる……などなど、高級時計としての利点が極めて多い。

この夢のような素材「SAXEM」と、ウブロの大定番クロノグラフムーブメント「ウニコ」が融合したことは、ウブロファンにはたまらないフュージョンだろう。

 

最後の1本は、ウブロが掲げる「The Art of Fusion」をまさに体現した新作。鮮やかなイエローのセラミックケースが、フランス人彫刻アーティストであるリチャード・オーリンスキーとのコラボレーションによって、芸術的な領域に到達した。時計業界に限らず、他業種とのコラボレーションによって傑作が生まれることは珍しくはない。しかし、その多くは「1回限り」。期間限定のプロジェクトがほとんどだ。ウブロとオーリンスキーのコラボレーションは、今年2024年で9年目に突入。2017年の初モデルから数々のタイムピースを生み出してきた。いかに両者の関係が健全で、互いの刺激によって素晴らしい相乗効果を生み出してきていることが分かる。最新作「クラシック・フュージョン トゥールビヨン オーリンスキー イエローマジック」は、スケルトンの手巻きトゥールビヨンに目の覚めるようなイエローのセラミックケースを組み合わせた意欲作だ。

「クラシック・フュージョン トゥールビヨン オーリンスキー イエローマジック」。手巻き。径45㎜。イエローセラミックケース。ラバーストラップ。3気圧防水。世界限定30本。1356万3000円。

オーリンスキー作品の魅力の一つは、なんといっても大胆なファセットカットによる美しい面の構成。本作においても、その鋭いエッジとセラミックの滑らかな質感が、見事に融合している。イエローセラミックのケースにおいて一際目存在感を放っているのが、ベゼルに取り付けられた6つのビス。ブラックのH型ビスが、真ん中にあるブラックPVD加工のスケルトンムーブメントとイエローセラミックのケースを違和感なく一体化させている。極限までスケルトン化されたムーブメントは、この6つのビスによって吊り下げられているかのようだ。約4日間のパワーリザーブで動き続けるトゥールビヨンと、彫刻作品のような唯一無二のケース。この時計を見飽きることは、ないだろう。

 

お問い合わせ:ウブロ公式サイト

文・構成/市塚忠義