2026.09.25

カルティエ「タンク アメリカン」に特別な“スケルトン”と“アールデコ”

角形時計を格上げするムーブメントとダイアルの表現力

カルティエ「タンク アメリカン」スケルトン。手巻き。ケースサイズ44.4×24.4㎜。ケース厚8.24㎜。18KPGケース。セミマットダークブルー アリゲーターストラップ(セミマットダークグレーアリゲーターストラップ付属)。日常生活防水。805万2000円。Eduart Sanchez Ribot © CARTIER

時計業界で最も有名な角形時計がカルティエの「タンク」であることに、異論を唱えるものはいないだろう。1917年、腕時計の黎明期に誕生したスクエアフォルムは、シンプルでありながらも、ひと目でそれとわかる強烈なアイコンを備えていた。

角形ケースを支える2本の並行する柱。1917年にルイ・カルティエによってデザインされ、1919年に発売が開始された「タンク」は、第一次大戦で活躍した戦車がモチーフになっている。

戦車を真上から見たときのキャタピラを、ケース左右の縦枠に見立てているのだ。

カルティエの「タンク」が、エレガントでありながら同時に力強さを備えているのは、こうした時代背景を巧みに取り入れているから。腕時計、そして角形時計の代名詞となった「タンク」には、その後に多彩なバリエーションが誕生していく。

「タンク アロンジェ」「タンク シノア」「タンク アギシェ」「タンク バスキュラント」「タンク フランセーズ」「タンク マスト」等々。そもそも成功するのが難しいと言われている角形時計で、これだけの傑作ファミリーを生み出してきたのは、カルティエの「タンク」だけである。

「タンク」ファミリーの中で、その派生モデルとして真っ先に加わったのが、1921年に誕生した「タンク サントレ」だ。標準のタンクより長細い角形ケースが特徴で、ケースは腕に沿うよう弓形に湾曲していた。「Cintree」とは、フランス語で「湾曲」を意味する。

この「タンク サントレ」の極めて美しいケースフォルムを受け継ぎ、1988年に誕生したのが、「タンク アメリカン」である。オリジナルの湾曲したケースデザインが、かつてニューヨークで人気だったことから、「アメリカン」の名前が与えられた。

今回のニュースは、その「タンク アメリカン」に、2つの特別な新作タイムピースが加わったこと。それが「タンク アメリカン」スケルトンと、「タンク アメリカン」アールデコ ラージモデルである。

カルティエ「タンク アメリカン」スケルトン。手巻き。ケースサイズ44.4×24.4㎜。ケース厚8.24㎜。プラチナケース。セミマットボルドー アリゲーターストラップ。日常生活防水。930万6000円。Eduart Sanchez Ribot © CARTIER

「タンク アメリカン」スケルトンには、プラチナケースとピンクゴールドケースの2種が用意されているが、その最大の魅力は、なんといってもスケルトンで露わになった手巻きムーブメントだろう。

ダイアルの12時位置にある香箱から6時位置にあるテンプまで、2番車、3番車といった基本輪列が一直線に並び、主ゼンマイから伝わるエネルギーをエスケープメントが制御するまで、その仕組みが手にとるように理解できる。

搭載されているムーブメントは、手巻きスケルトンムーブメントの「1988MC」。「タンク アメリカン」の誕生年にちなんで命名されたムーブメントは、2008年の誕生時に特許を取得しており、以来メゾンのシグネチャーにもなっている。

インデックスの役割を果たしているのは、実はムーブメントのブリッジである。ローマ数字象ったムーブメントのブリッジは左右対称で形成されており、ムーブメントがまるで宙に浮いているような姿にカルティエならではの美学を感じる。

ブリッジの内側には、ブラックエナメルのコーティングを施したレイルウェイインデックスをセット。湾曲したケース形状に合わせて、レイルウェイの上下だけが弓形にカーブしている点にも注目して欲しい。

カルティエ「タンク アメリカン」アールデコ。自動巻き。ケースサイズ44.4×24.4㎜。ケース厚8.6㎜。プラチナケース。セミマットボルドーアリゲーターストラップ。日常生活防水。472万5600円。Eduart Sanchez Ribot © CARTIER

そしてもう一点の新作が、「タンク アメリカン」アールデコ ラージモデルである。プラチナケースにサテン仕上げを施した湾曲ケースのサイズは、縦44.4㎜、横24.4㎜。黄金のサイズバランスに加え、先に紹介したスケルトンモデル同様のカーブケースによって、時代を超えた美しさが宿っている。

一方、ダイアルのデザインでは、「タンク」が誕生したアールデコ全盛期の美意識を表現。大胆な幾何学的なグリッドが張り巡らされたダイアルは、そのグリッドを効果的に使いボルドーのグラデーションカラーに仕上がっている。

Eduart Sanchez Ribot © CARTIER

ボルドーのグラデーションダイアルは、アリゲーターストラップや八角形のリューズトップにセットされたルビーとも美しく調和。統一カラーで一体感を強調しながらも、ローマ数字インデックスの「XII」と「VI」だけをデフォルメし、強烈なインパクトを残す。

ボルドーグラデーションのダイアルは、最も明るい部分にはサンレイ仕上げ、最も暗い部分にはオパライン仕上げ、そしてその中間の色調にはサテン仕上げを施すといったこだわりよう。

その後に用意されているダイアルの着色工程もかなり複雑だ。まず一層目としてニッケル合金でコーティングしたガルバナイズド加工を施し、次の二層目に赤みを帯びたラッカーを塗布することで、温かみのある色調をプラス。また三層目にグレーのパウダー転写を施すことでシャープさを実現し、最後に光沢のあるニスを塗布してこの個性的な文字盤をカバーする。

搭載するムーブメントは、自動巻きのメカニカルムーブメント、キャリバー「1899MC」。このキャリバー名は、かつてカルティエがパリのラペ通り13番地にブティックを構えた「1899年」にちなんで名付けられた。

カルティエの「タンク アメリカン」は、いつの時代もクオリティに満足することなく進化を続け、その美しさに磨きをかける。これこそが、傑作時計の宿命。カルティエが、その期待を裏切ることはないのだ。

問い合わせ/カルティエ公式サイト

文/市塚忠義