2022.10.18

フランク ミュラーの知名度を上げた初のSSケースモデル【ザ・ファーストモデル ♯10 フランク ミュラー「カサブランカ」】

焼ける「エイジングダイヤル」が人気の理由

フランク ミュラーの名を一躍有名にしたのは、超複雑なコンプリケーションウォッチの数々。ジャンピングアワー機能付きのトゥールビヨンに、ダブルフェイスのモノプッシャークロノグラフ等々。ジュネーブの時計学校では通常は3年かかる必修の授業を、わずか1年で終えてしまった天才時計師。その才能が開花するまでに、さほど時間はかからなかった。

1994年の「サカブランカ」。小さなインデックスと、横に広がったロゴが、第一世代の特徴。

1990年代、毎年のように発表していた複雑時計とは対照的なモデルが「カサブランカ」である。これは、フランク ミュラー初のSSケースモデルとして、1994年に誕生した。時計機能としてはシンプルな3針。ただ、フランク ミュラーの代名詞ともいえるケースデザイン、トノウ カーベックスを広く一般的に知らしめたモデルといえば、この「カサブランカ」であろう。

第二世代となる「カサブランカ5850」は、2000年頃に初出。カサブランカのダイヤルは、基本的に、ブラック、ホワイト、サーモンピンクが用意される。

驚異的な時計ばかりを発表してきた奇才は、「普通の」ムーブメントを搭載することで価格を抑えたこのモデルに、当初はまったく乗り気ではなかったという。しかし結果的に、フランク ミュラーのもう一つの才能が証明された。それがケースデザインの完成度の高さだった。三次元曲線を巧みに取り入れた個性的なトノウ形ケース。腕の形状に合わせてカーブしており、装着感も非常に高い。そして何より、見た目が美しいのである。

若き日のフランク・ミュラー氏。デザインセンスの良さは、イタリア人の母譲りか。

筆者はスイスで毎年フランク ミュラー氏と顔を合わせてきたわけだが、以前から感じていたことがある。彼は誰もが認める時計師だが、完全な技術畑のタイプかというと、そういうわけではない。身につけているものはとてもファッショナブルで、美へのこだわりも人一倍強い。そう、彼はアーティストである。そんな彼の「センスの良さ」が全面に表れ、形となった腕時計が「カサブランカ」というわけだ。

モデル名の由来は1942年の映画『カサブランカ』。1940年代、フランス領モロッコのカサブランカをイメージしている。

当然「カサブランカ」は、大ヒットする。さらに追い風となったのが、「エイジング」というキーワード。「カサブランカ」のダイヤルには、劣化防止のための保護塗料を、あえて施していないタイプがある。経年変化でダイヤルの表面が次第に焼けていき、「エイジング」を楽しめるのだ。このアンティークウォッチのような仕様に、日本の時計マニアが飛びいついた。『時計Begin』でも、そのエイジング具合の特集を何度も組み、大きな反響を得た。

現行品「カサブランカ 5850」。自動巻き。ケース32×45㎜。SSケース。カーフストラップ。日常生活防水。110万円。

フランク ミュラーの時計を、一般的に身近な存在にした「カサブランカ」は、もうすぐ30歳。記念すべきアニバーサリーに、どんな新作が発表されるのか。今から楽しみである。

問い合わせ:フランク ミュラー

(文・構成/市塚忠義)

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