2022.11.01

あまりにも有名なクロノグラフ【ザ・ファーストモデル ♯11オメガ「スピードマスター」】

伝説となる時計には、伝説となるエピソードがある––––。永遠に語り継がれるエピソードで、オメガのスピードマスターの右に出るものはないだろう。人類の宇宙空間への挑戦、アポロ計画を支えたスピードマスターの活躍は、時計ファンなら誰もが知っている伝説。月面に着陸した、世界で最も有名なクロノグラフであろう。

1957年、初代スピードマスター。特殊な形状の短針から“ブロードアロー”とも呼ばれる。

初代スピードマスターが誕生したのは、1957年。「レイルマスター」「シーマスター300」とともに、プロフェッショナルウォッチ3部作のひとつとして登場した。ブラック文字盤、ベゼルのタキメーター表示といったデザインは、当初から変わらないアイコン。また搭載された手巻きのキャリバー321は、その後10年以上にわたり、スピードマスターを支える存在となった。

NASAが課した過酷なテストは時計が破壊されるほど。その中で唯一テストをクリアしたのがスピードマスターだった。

スピードマスターに欠かせないエピソードといえば、NASAとの関係だろう。1960年代前半、有人宇宙飛行計画の装備品として、宇宙空間の過酷な環境でも正確に時を刻める腕時計を探していたNASA。11項目のテストを唯一パスしたスピードマスターは、NASAの公式装備品に選定され、アポロ11号とともに人類初の月面着陸に成功。アポロ13号では、決死の地球帰還といった歴史的瞬間に立ち会い、“ムーンウォッチ”として愛される一大傑作となった。

船内活動をする宇宙飛行士のバズ・オルドリン。スピードマスターとともに、人類初の偉業を成し遂げた。

キャリバー321を受け継いだキャリバー1861を搭載する第三世代のスピードマスターは、超ロングセラーに。しかし、唯一の問題はオメガが推進する「マスタークロノメーター化」であった。キャリバー1861に備わる脱進機は一般的なスイスレバー式で、ひげゼンマイはニヴァロックス製。マスタークロノメーターを取得するには1万5000ガウスの耐磁性が必要で、それを叶えるのがオメガ自社製ムーブメントのコーアクシャル脱進機とテンワ、そしてシリコン製ひげゼンマイである。

1957年の初代モデルを復刻。「スピードマスター ’57」。手巻き。径40.5㎜。SSケース&ブレスレット。キャリバー9906搭載。118万8000円。

そのためスピードマスターは、オメガ製品の中で唯一マスタークロノメーター取得が叶わないモデルだと考えられてきた。しかし2019年、オメガはこの問題についに決着をつけた。キャリバー1861をベースにシリコン製ひげゼンマイとコーアクシャル脱進機を備えたキャリバー3861を開発。アポロ11号 50周年記念モデルに初搭載すると、2021年には待望のレギュラーモデルも誕生した。

マスター クロノメーター化を果たした現行モデルの「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」。風防ガラスはヘサライトガラス。手巻き。径42㎜。SSケース&ブレスレット。キャリバー3861搭載。88万円。

時計の外観は、キャリバーが変更されたことで大きく変わったところは、ほとんどない。しかし、オメガのマスター クロノメーターはCOSC取得が前提であり、さらにそれ以上の精度が求められる規格のため、1861搭載の前作より高精度であることに間違いはない。オメガの伝説のクロノグラフは、手巻きのスタイルを変えることなく、進化を続けている。

問い合わせ:オメガ

(文・構成/市塚忠義)

同じカテゴリーの記事