2022.12.28

深海に挑み続ける桁違いのダイバーズウオッチ 【ザ・ファーストモデル ♯14 セイコー プロスペックス「マリーンマスター プロフェッショナル」】

セイコーには、シンプルなドレスウオッチから本格的なスポーツウオッチ、ソーラー充電式のGPSウオッチまで、実に多彩な自社ブランドが存在する。その中でも、長い歴史とともに異色の存在感を放っているのが、セイコー プロスペックスの通称ツナ缶「マリーンマスター プロフェッショナル」だ。

1975年、初代モデル。世界でいち早くチタン素材をケースに採用した飽和潜水仕様モデル。

誕生したのは1975年。深海で作業する潜水士などに向けた、プロ仕様のダイバーズウォッチとしてであった。その初代モデルの防水性能は600m。通常、深海で作業する潜水士は、窒素酔いを防ぐために、事前に加圧室でヘリウムガスを体内に取り込み飽和状態にする。地上に戻る際には、その途中で減圧室に入りガスを抜くわけだが、その時に放出されるヘリウムは非常に原子が小さため時計内部に侵入してしまい、潜水士が再び浮上する時に気圧が低くなると、体積が増えて時計を破壊してしまうのだ。

外胴プロテクターは、横からビスで固定する独自の構造をしている。

この問題を解決するため多くの時計ブランドがとった措置が、そのヘリウムガスを放出するバルブを時計ケースに装備することだった。それが1000m防水クラスのダイバーズでよく耳にする「ヘリウムエスケープバルブ」と呼ばれるものだ。これに対し、セイコーが1975年に発表したモデルは、全く逆のアプローチでヘリウムガスの問題を解決。そもそもヘリウムガス自体を侵入させないという発想から、超気密構造を生み出した。独自のL字型パッキンを採用することで、ヘリウムガスの侵入を完全にシャットアウトしたのだ。

シリーズ初のクオーツムーブメント搭載モデル。1978年に日本大学隊及び、冒険家の植村直己氏が北極探検時に使用したモデルとして知られる。

1978年にはシリーズ初のクオーツモデルが誕生。1980年代に入るとアラームやクロノグラフなどの機能を搭載した“デジ・アナ”タイプに進化した。これらのモデルが数々の冒険家や登山家に使用されたことで、同コレクションの信頼性は、格段に高まっていった。

1982年のデジタル&アナログタイプのモデル。12時位置のデジタル表示に加え、デプスメーター表示も装備している。

こうした画期的なメカニズムの他に、「マリーンマスター プロフェッショナル」を有名にしたもう一つの要因が、ツナ缶の愛称で知られる「外胴プロテクター」の圧倒的な存在感だろう。1986年には、この外胴プロテクターがチタンからセラミックに。さらに裏ぶた一体型のワンピース構造を採用することによって耐衝撃性を向上させ、1000m防水を実現させた。

1986年、セラミック製プロテクターを装備した飽和潜水用1000m防水モデル。

また2014年に海洋研究開発機構が行った調査では同コレクションの1000m防水モデルが、水深3000mを超えても稼働することが確認されている(※ただし、全ての製品で同様の結果が得られることを保証するものではない)。つまり実際の公表スペックより3倍もの実力を備えたモンスターダイバーズであったのだ。現行モデルでは、ベゼルに耐食性が高いエバーブリリアントスチールを採用するなど、誕生から47年を経た現在でも、着実に進化を続けている。

「セイコー プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル SBDX038」。自動巻き。ケース縦53.5×横52.4㎜。チタンケース(一部エバーブリリアントスチール)。シリコンバンド。1000m 飽和潜水用防水。44万円。

問い合わせ セイコーウオッチ

(文・構成/市塚忠義)

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